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まるでなぞなぞの出題者と回答者だ。
楽しいからいいのだけれど。解らない問題というのは解決したくなるものだ。
照明が、少し揺れた。
奴は続きを語る。
「そうなったら、そいつも流石に諦めてホテルに戻ることにしたんだが、直ぐに呼び止められた。先程高説を説いていた男にだ。曰く、彼はこの町で酒を造っていて、今から今年の酒を飲むところだったそうだ。今年の出来は会心のものだということで是非試飲してほしいという話だ。そいつにとってはもう正に願ったり叶ったり。何せ探していた酒がそこにあったんだからね」
「いいねいいね。その酒がなんだってんだ?」
漸く話が動き出したことで、僕は更に高揚した。
酒の効果もあるのかも知れなかったが。
次の酒を頼もうと周りに目を這わすと、どうやら残すところ客は僕達だけのようだ。一般的には今日は平日であるからさして驚きはしない。
スイッチのオンとオフのメリハリをつけられてこそ、真の社会人である。
まぁ、僕は明日休みなのだけれども。
「まぁそう急くなよ、で、早速男がグラスと、瓶を1本持ってくる。一見何の変鉄もない酒だ。随分と色の薄い酒だったが、どうやら果実酒のようだ。そりゃ、よその国で日本酒が出てきたら吃驚だろう。しかしそれほどまでに透明感のある酒だった。グラスに酒を注ぎながら、男はそいつにその酒がいかに凄いものなのかを説明した。そこでそいつは、自分が面倒くさい、厄介なものに巻き込まれた事に気付いたんだよ」
「ん、どーいうことだ?」
ここにきて焦らしてくるあたり、こいつ、実は中々のサディストなのではないだろうか。
僕がうずうずしている様を見て、せせら笑っていやがるんだ。いや、それは僕の想像でしかないのだけれども。
互いを包む濃厚なアルコールの匂いが、僕らを現実や日常というものから遠ざける。
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