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「周囲を包んでいた漆黒が、急速に加速する感覚の後、辺りが碧く、碧く、輝きだした。淡い揺めきがまるで松明の灯りの様でもあったが。その揺めきが先程の酒であると認識するまでに少し間があった。そして、それを認識したと同時に、潮の香りを感じ、強烈な磯臭さが鼻腔を刺激する。それは決して、心安らぐ臭いでは、なかった。寧ろ、不快感が全身を覆った。途端、意識がぼぅ、と巨大な何かに飲まれていく。きっとブラックホールに近付いたら、こんな感覚に襲われるのだろうなと思う。得たいの知れないそれらに、鋭い恐怖心が、指先をナイフで切ってしまったかのように溢れ、意識を短絡的にしていく。まるで何者かに操られる人形のような――」
沈黙。
そこまでを語った後、沈黙が僕らの元に訪れた。
聞こえる筈のBGMでさえ、僕の耳には届いていなかった。
早く、その後はどうなったのか、それを声に出したいのに。
奴に促したいのに。
声にならなかった。
言葉に出来なかった。自分の意思では、どうにも出来ないのだ。
意味がわからなかった。
ただ一つ、僕に許された行為は「酒を飲むこと」だけであった。
透明な液体に目をやる。
碧く、輝いていた。
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