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声色がふにゃりとしていた。
もう、いつもの奴の声ではなかった。
そういえば、こいつは誰だ?
僕は一体、今日誰と飲んでいたのだろうか。
思い出せない。思い、出せない。
何かを、告げようとしたが、僕の口からはごぼごぼ…とうがいをするような音がするだけだった。
「ふふふふふふ……
そして、そいつ以外の人間が、
ついに、
とうとう、
ようやく……ふふふ…………
グラスの中身を、一息で、飲み干した。
はは……カチャ、と音をあげて、くっく……グラスがテーブルに置かれた。
へへへ、
そこでそいつは漸くグラスから目を離し、今度は自分のグラスを見る。
『さぁ、遠慮せず、お飲みになって下さい』
ははは……
男の手には、水掻きが在るように見えたが、
最早そんなもの、些細なことでしかなかった。
宇宙と言うものの中で、自分がいかに矮小であるかを悟ったかのような。
ふふっふふふ……! ゴマ粒や米粒のように個のみでは視界に捉えるのもままならない、そんな些細な、違和感。はは、違和感とは大抵大きな事象を前に過ぎ去ってから問題として認識するものだからね。だから君も、体調が悪いな、と思ったらすぐに病院へ、行った方がいいよ。……ふふふ、で、でね? とうとう、そいつは、その、酒を……あっはっはっはっは!! 飲んだんだよ! 味は良くわからなかったってさっ!! そりゃあそうだろうさ!! ふーっふっふ……!! だって、なぜならばそうっ!! あの酒は……」
苦しい。
苦しい。
クルシイ……。
気が付くと、酒を持っていた。
僕にはその酒に生物がいるようには見えなかった。
しかし、碧く輝くその酒をもう飲みたくはない。飲みたくないというのに。
一口、口つける。
呼吸が、出来なくなった。
真空に漂うかのような感覚。血が昇る。四肢が痛い。
唯、不気味に笑い声をあげる奴の声だけが、いつまでも僕を支配し、そして。僕は漸く、意識を失った。
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