Chapter1・水曜日の恋人

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 中間テストが終わったその日、私のこれからの高校生活が180度変わるような、とっておきの幸運が舞い降りた。  日直の仕事を終えて向かった昇降口には、誰もいなかった。テスト期間から開放されたのだ。部活だ、遊びだと、みんな終了チャイムが鳴ると共に、教室を飛び出して行った。 私だって今日は、友達とランチの後で、カラオケに行く予定だ。先に駅前のファミレスにいる友達に連絡をいれようと、下駄箱の前でカバンから携帯電話を取り出した所で、「雫井さん」と不意に苗字を呼ばれた。 「雫井結衣(しずくいゆい)さん」 「はい」  名前を呼ばれ、反射的に振り向いた。振り向いた先、下駄箱の陰から男子生徒が顔を出した。誰もいないと思っていたから、驚いた。そして私は息を飲む。彼は私の知っている人だったからだ。  その男子生徒の名前は、岡崎太賀(おかざきたいが)。違うクラスの男の子だった。もっと言うと、私たち1年生のクラスは、校舎が2号棟と3号棟で分れている。私のクラスがある棟と、彼のクラスがある棟が離れているので、学校生活を送る上で、彼と廊下ですれ違うこともない。では、私はなぜ彼を知っているのか?
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