龍一の能力

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男を囚えた龍一は、巧みに圧をかわしながら、 「代永の客人は、どこにいる」 質問の仕方を変えてみた。 こんな下っ端に、草壁の素性が教えられているはずがない。 それに思い至らなかったのは、龍一のちょっとしたミスだが、龍一は自身に焦りがあることを実感する。 『美百合を待たせているせいか』 「てめぇ、離せ。クソヤロウ!」 頭の悪そうな暴言を吐きながら暴れる男の頭を、龍一はわしづかみにする。 一発、洗面台に喰らわせた。 「ギャッ!」 鼻血を吹いたが死にはしない。 ちゃんと加減してある。 しかしおとなしくなった頭を、続けざまにシンクの中に突っ込み、上から水道の水を全開にする。 ポップアップの栓を閉めたから、水はすぐに溜まり、男を溺れさせる。 「ガ、ガヴァァァ」 男はジタバタと手足を動かし大暴れする。 龍一は髪を掴んで一旦水から引き上げてやった。 その顔を覗き込むようにして、もう一度男に尋ねた。 「客人は、どこに匿われてる?」 男は激しくむせかえりながら、顔中からあらゆる液体を垂れ流していた。 だがまだ、目の中に光りが残っている。 「!」 龍一は男の顔を、再び水の中に突っ込ませる。 質問をしたのに返事をする刻を与えず、龍一の拷問は続く。 ジタンバタンともがくが、気が遠くなった瞬間には水から引き上げられ、また殴られる。 意識を取り戻したと思えば、再び水の中だ。 それを何度繰り返しただろうか。 ギブアップの意思表示に洗面台の縁を弱々しくタップして、やっと龍一に顔を仰向かせてもらった。 だが、そのまま鏡に激突――。 額を割って、顔面を真っ赤に染めた自分を鏡の中に見る。
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