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階段を降りた地下の廊下には、ところどころ見張りの姿が見えた。
その廊下の奥には、ドアの前に仰々しく男がふたり並んで立っている。
万全の警備といったところだから、部屋の中にいるのは賓客で間違いないだろう。
廊下の角から見張りの位置を確認した龍一は、暗がりにそっと体を滑り込ませる。
リノリウムの床なのに、龍一は足音をたてない。
だから、ひとりが壁に激突し、断末魔の血の跡を残しながらずり落ちるまで、見張りは異変に気がつかなかった。
「おい、どうした!」
緊急事態に驚いて駆け寄る男の口を、龍一が塞ぐ。
さっきまで気配もなかったのに、まるで湧いて出たかのようだ。
仲間を呼ぶのを封じられ、腹を蹴り上げられて、男は苦痛の呻きをもらす。
だが意識は刈り取られなかった。
代永が客のボディガードに立たせるからには、それなりに有能だ。
次は己の番とばかりに、龍一めがけて拳を振り上げたとたん、
「――!」
男は、顎の下からナイフで貫かれる。
口を垂直にナイフの刃が突き刺さり、脳みそに届く手応えを、龍一は手のひらに感じる。
拘束していた腕を静かに外した。
男はズルズルと床に尻を落とす。
ナイフを引き抜く際にたてる血濡れた音だけが、廊下に低く響く。
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