鹿沼 日文

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「では、家の中を視させていただきます」  悠輝は一つ一つ部屋を確認していった。  特に聖子の部屋は念入りに調べた。部屋は聖子が生きていた頃のままにしてあるらしい。  塵一つないので、日文が掃除を欠かさないのだろう。  一通り視終わると、悠輝はリビングに戻ってきた。 「どうです? 聖子はまだこの家にいるんでしょう?」  確信しきった口調で日文が言う。  悠輝は静かに首を振った。 「いいえ、何処にもいらっしゃいませんでした」 「うそッ、だって現にこうして……」 「奥さん、どうしてスマートフォンのロックを外せたんですか?」 「え?」 「お嬢さんが教えてくれたのでしょうか?」 「いいえ……」  本人もなぜロックを外せるようになったのか思い出せないのだろう、戸惑った表情を浮かべた。 「別にそんな事、どうでもいいじゃないですか! 私が書き込んでいるとでも言うんですかッ?」  今度はゆっくりと頷く。 「な、なにを……」 「このスマホのロックの解除が出来ず、奥さんはショップに持ち込んでいます。  その際にスマホは初期化されてしまいました」 「初期化? でも、こうしてデータが残っているじゃないですか!」 「それはSNSのアカウントにバックアップされたデータです。スマホのロックは奥さんが再設定しています」 「ウソよッ。いい加減な事を……」 「本当だよ」  今まで沈黙していた、太一が口を開いた。 「何度もそう言って、お前がスマホを操作している動画も見せたじゃないか」 「何を言っているの、あなたまで……」 「もう一度、よく見なさい」  優しく言うと、太一はテレビの電源をいれて動画を再生した。  もう何度も見せているのだ。  画面に一心不乱にスマートフォンを操作する日文が映し出される。  カメラは彼女の手元に移動するが、彼女は全く気づかない。 『しまった! 課題するの忘れた(x_x)』  送信ボタンを日文が押す。 「そんな、ウソ……ウソよ……あの子は……」  ヒステリックな声を上げる。 「いますよ」  遮るように悠輝は言った。 「え? 今いないって……」 「家には居ないと言うだけです。しかし、あなたの中にはいます」 「そんな、気休めを……」 「違います。あなたの中に聖子さんが居るからこそ、代わりにこの呟きができたんじゃないですか?」
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