32人が本棚に入れています
本棚に追加
鹿沼 日文
依頼者の家は郡山市郊外の住宅地にあった。
鬼多見悠輝は依頼者にアポを取り、愛用のマウンテンバイクで向かった。
拝み屋と言っても、悠輝はそれらしい格好をしていない。
今日もグレーのジーンズに白い革ジャンを羽織っている。
これにヘルメットとサイクルグローブを着けて、MTBを漕いでいるのだ。
目的の家に着くと、ヘルメットを脱いでインターホンを鳴らした。
〈はい〉
中年の女性の声がインターホンのスピーカーから流れる。
「御連絡致しました、鬼多見です」
〈お待ちしていました、今開けます〉
どうやら声の主が依頼者の一人、鹿沼日文だろう。
悠輝は日文にリビングに通された。そこにはもう一人の依頼人、鹿沼太一もいた。
「これが娘の聖子です」
写真には日文と高校生ぐらいの少女が写っていた。娘の両肩に手を添えるその姿と表情だけでも、母がいかに溺愛していたかを察せられる。
「話は天城から聞いています。お亡くなりなられた後も、SNSにお嬢さんのアカウントで書き込みが続いているんですね?」
「ええ……。亡くなったのは三ヶ月前です。書き込みは、二ヶ月ぐらい前から始まりました。初めは、ニュースでも話題になっている乗っ取りかと思ったんですが……」
「調べてもらったら、お嬢さんのスマートフォンから書き込まれていた」
「はい」
悲しそうでありながら、嬉しそうな、何とも言えない表情を日文はした。
一方、太一は苦虫を噛み潰したような顔をしてうつむいている。
「スマートフォンを拝見できますか?」
日文がスマホを差し出した。
「済みません、ロックを解除していただけますか?」
「失礼しました」
ロックを解かれたスマホでSNSを立ち上げる。
『今日は晴れてて風が気持ちいいー(*^▽^*)』
『友達とランチ。パスタとドリア、どっちがいいかな? カロリーも気になるし……』
『今朝、ママとケンカした。もう、どうして私の物勝手にさわるかな(`へ´)フンッ』
『あ~ん、雨。傘忘れた(>o<)』
『しまった! 課題するの忘れた(x_x)』
聖子が書いたと思われる書き込みが続く、最新の日付は昨日だ。
少なくても一日に一言は呟いている。
そして、日文が言うように亡くなった日からひと月程度は、何も書き込まれていない。
最初のコメントを投稿しよう!