鹿沼 日文

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鹿沼 日文

 依頼者の家は郡山市郊外の住宅地にあった。  鬼多見悠輝は依頼者にアポを取り、愛用のマウンテンバイクで向かった。  拝み屋と言っても、悠輝はそれらしい格好をしていない。  今日もグレーのジーンズに白い革ジャンを羽織っている。  これにヘルメットとサイクルグローブを着けて、MTBを漕いでいるのだ。  目的の家に着くと、ヘルメットを脱いでインターホンを鳴らした。 〈はい〉  中年の女性の声がインターホンのスピーカーから流れる。 「御連絡致しました、鬼多見です」 〈お待ちしていました、今開けます〉  どうやら声の主が依頼者の一人、鹿沼日文だろう。  悠輝は日文にリビングに通された。そこにはもう一人の依頼人、鹿沼太一もいた。 「これが娘の聖子です」  写真には日文と高校生ぐらいの少女が写っていた。娘の両肩に手を添えるその姿と表情だけでも、母がいかに溺愛していたかを察せられる。 「話は天城から聞いています。お亡くなりなられた後も、SNSにお嬢さんのアカウントで書き込みが続いているんですね?」 「ええ……。亡くなったのは三ヶ月前です。書き込みは、二ヶ月ぐらい前から始まりました。初めは、ニュースでも話題になっている乗っ取りかと思ったんですが……」 「調べてもらったら、お嬢さんのスマートフォンから書き込まれていた」 「はい」  悲しそうでありながら、嬉しそうな、何とも言えない表情を日文はした。  一方、太一は苦虫を噛み潰したような顔をしてうつむいている。 「スマートフォンを拝見できますか?」  日文がスマホを差し出した。 「済みません、ロックを解除していただけますか?」 「失礼しました」  ロックを解かれたスマホでSNSを立ち上げる。 『今日は晴れてて風が気持ちいいー(*^▽^*)』 『友達とランチ。パスタとドリア、どっちがいいかな? カロリーも気になるし……』 『今朝、ママとケンカした。もう、どうして私の物勝手にさわるかな(`へ´)フンッ』 『あ~ん、雨。傘忘れた(>o<)』 『しまった! 課題するの忘れた(x_x)』  聖子が書いたと思われる書き込みが続く、最新の日付は昨日だ。  少なくても一日に一言は呟いている。  そして、日文が言うように亡くなった日からひと月程度は、何も書き込まれていない。
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