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帰りの自転車の二人乗りは、ずっと笑ってばかりいた。
蓮が小さい頃の自分のバカな話をたくさんしてくれたり、高校の学年主任の変わり者の先生のモノマネや、ミッチーのモノマネまでしてくれた。
福は、蓮の腰にしがみついたままお腹を抱えるほど笑った。
それでも、時間は残酷なもので、楽しいひとときはあっという間に過ぎて行く。
もう、福の家の前に来ていた。
「ちょっと遅くなったけど、大丈夫かな?
幸の母さんが怒ってなければいいけど」
蓮は、いつもの表情で玄関を気にしながらそう言った。
福は自転車を降りると、蓮に後ろからしがみついた。
「幸? どうした?」
「れんれん…
1分だけこのままでいさせて…」
福は蓮の背中に抱きついて、蓮の匂いや、蓮の胸の鼓動、蓮の全てを胸一杯に吸い込んだ。
「よし、1分経過」
蓮はそう言うと、振り向いて福に優しくキスをする。
挨拶のような軽いキス…
でも、福はそんなキスは嫌だった。
蓮の首に腕を回し福の方からキスをすると、背中で自転車を支えながら、蓮は甘く優しいキスを福に返す。
最後のキスは、記憶に残るような心に沁みる切ないキスだった。
そして、そのキスは福の涙の味がした。
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