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福は玄関を開け家に入ると、真っ先にリビングに向かった。
パパとママの顔が見たい…
二人ともソファに座ってくつろいでいる。
「幸、今帰ったの?
早くお風呂に入ってね。ママ達はもう寝るから」
「うん…」
福は、二人の後ろ姿にさよならを言った。
幸の日常を壊すことは許されない。
今、二人の顔を見たら涙で余計な事を言いそうだから。
ママ、パパ、私を愛してくれてありがとう…
元気でね、さようなら…
福は涙が止まらなかった。
自分の部屋に入ると、心臓の音がやかましいほどに大きく聞こえる。
でも、その心臓の音を聞いているとなんだか心が安らいだ。
まだ、私は生きている。
福は、幸の机の二番目の引き出しを開けた。
ここに何が入っているのか、福は何でも知っていた。
この引き出しには、幸と福の思い出の品がたくさん入っている。
特に福が幸に書いたたくさんの手紙が、大切に箱の中にしまってあった。
福は、そこにもう一つ小さなメモに書いた手紙を入れて、また箱を閉じた。
“幸、れんれんと結婚してね、福からのお願いです”
幸が気づくことはないと知りながら、福は、そっと、その箱をまた引き出しに戻した。
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