お使い

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『…あの、私からも質問させていただいてよろしいでしょうか?』 『? どうぞ。』 突然の質問に、ラギ自身答えられるという自信は無かったが。 その質問というのは至ってシンプルなものだった。 『失礼ですが、その髪はどこかで染めたものですか?』 『え、髪ですか?』 言われてラギは前髪を少し弄る。 少し癖のある黒い髪。 しかし光にかざすと若干青みを帯びている、そんな髪である。 もちろん地毛。 染めたわけでも、ましてやカツラでもない。 『…地毛、ですけど。』 『そう、でしたか…。ありがとうございます。』 『…?』 答えを聞くと、ハンナは少し満足そうな顔をしていた。 そんなに珍しい髪の色に見えたのだろうか。 『とても綺麗な色だったので。 もし染めていらっしゃるのなら、どんな製品を使っておられるのかと。』 『そうですか?ありがとうございます。』 髪の色を誉められたのは初めてだったので、ラギは少し嬉しくなった。 『シェリーさんは、髪を染めたりするんですか?』 『一度染め始めると手入れが大変なので、染めてません。』 そういってハンナはくるくると自分の髪をいじった。 癖のあるハンナの髪は指に絡め、離せばふわっともとの形に戻っていく。 『そのままでいいと思いますよ。似合ってます。』 『ふふ、本当ですか?ありがとうございます。』 『…あ』 『はい…?』 これまでの会話はずっと単調なもので、ハンナも淡々と話を進めているだけのようだった。 表情にさほど変化もなく、ただ言葉を発している、そんな風に。 そんな彼女が、たとえ社交辞令だったとしても声を出して笑ってくれた。 そんな些細なことが、ラギにとっては嬉しかった。 『今まで表情がずっと固かったので。 笑ってくれて、良かったなぁって。』 『!』 『少しは緊張、解れましたか?』 緊張、と言われハンナはハッとした。 自分は無意識に、目の前の少年に心配されるほど、緊張していたのだろうか? 取引先に表情が固い、と言われたのは問題かもしれない。 しかし今は仕事中であって、そもそも今笑ったのだって社交辞令で。 緊張が解れたとか、そういう事ではなかったのだが…。 『ぷっ…あはは』 それを、真っ直ぐに。 なんの濁りも感じさせずに言ってしまうラギが、可笑しくて。 『はい、だいぶ楽になりました。』 ハンナは笑った。 年頃の少女のように、笑った。
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