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「そうね、椎体形成術の原理は簡単だけど、実際には大手術だと言ってもいいわ。切開は皮膚、皮下組織、そして筋肉にまで及ぶ。脊椎にドリルで穴をあけて、ボルトを適切な角度で挿入したあと、縫合もその三段階で行うの。なかなか派手な工事ね。真珠ちゃんはまだ若いから、完治から数年後には器具の除去手術を行うけど、体力に乏しい年配の患者の場合は一生体内に残したままにするケースもまれじゃないわ」
「数年……そんなにかかるんですね」
「そうね」
「……」
そしてリハビリの段階になってからでなければふたたび歩けるかどうかも分からない。いまさら真珠の行為の重大さが身にしみてくるようだ。
……。そのまま僕はソファに座って、雪里先生はその背後に立ったまま、しばらく黙って窓の外を眺めていた。
夕べから風が強い。青空と音もなく流れる雲だけが大映しになる窓を見て――流れているのは雲ではなく僕の乗ったこの船の方だったら、などととりとめのない思いをはせる。
考えることは子供の頃と同じだ。
「真珠ちゃんは、きっとまわり道に迷い込んだのね」
唐突に雪里先生が言った。
「まわり道?」
そう。先生はうなずいて、珈琲をひとくち飲んだ。
「あらゆる出来事とそれに伴う感情を望みの方角へ昇華し続けることができたなら、誰ひとり迷うこともない。だからこそ人は迷うの。じぶんの存在価値、存在意義は自分自身で見出すしかないけれど、多くの人間はそんな重要な命題から目を背けるか、忘れる方法を知っているかなんだ。でもね、真珠ちゃんはそこに面と向かったんだわ」
そして……そして真珠は、おのれの存在の希薄さに、絶望してしまったのだろうか。
「あいつは言ってました。もう、どこにも居場所がないって。だから悲しいって、泣いていました」
不意に僕まで泣きたくなってしまった。雪里先生が僕の顔をうかがえない位置に立っているのが幸いだと思った。声が震えないように、ぐっと涙を飲み込んだ。
「僕に何ができますか。僕は、どうすればいい。どんな言葉を、あいつにかけてやったらいい」
「瑠璃也君、言葉は必ずしも必要じゃないの」
「なら、どうやって、」
「そばにいてあげて」雪里先生のしなやかな手が背後から僕の肩に乗った。「彼女をまるごと受け止めるような気持ちで、ちゃんと見守ってあげて。手首の傷や今回の手術でできる背中の傷あとから目を背けないであげて」
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