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「またそんな幼稚な番組観て。いいか、昨日も言ったがそのテレビはカード式だ、誰の金で買ってやったと思ってる」
「ううん、ルリは知らないんだ、アンパンマンは深いよっ。一位はね、」
「どうでもいいよ」
「一位はぁ」真珠はテレビから視線をこちらへ移すと左手のひとさし指をぴんと立て、まんまるの黒い瞳をきらきらさせて言った。「良い心なんか持っているから苦しむんだ!」
「……おお、」
「ほらねっ、深いでしょ」
「別に」
「だっていま、おおって言ったよっ」
「言ってねえよ」
「言ったもん!」
――と、がちゃりと部屋のドアが開けられ、いきなり雪里女史が姿をあらわした。何故か看護師が運んでくるはずのお膳を携えていて、看護師よりも器用に片手でバランスを取っている。
「おー、盛り上がってるなあ、さすが付き合ってるだけあるわね」
この言い方、いったい何度目なんだ。
「付き合ってません。ていうか、ノックくらいしてください」
「千早せんせい、似合う。ウエイトレスさんみたい」
「お前も否定しろ」
「おまちかねのランチよ」雪里先生は僕の言い分などまったく介すことなく、真珠に向かってウインクした。「ちょうど病棟に配膳車が来ていたから、勝手に持ってきちゃった。本日のメニューはチキンのクリームソースがけ、デザートはフルーツたっぷりの冷たいパンナコッタ」
「わあ、おしゃれっ」
「そう、ここ中央病院の食事はレストラン顔負けなんだから。良かったわね真珠ちゃん、今日は瑠璃也君に食べさせてもらえるわね」
「うん! ルリに、あーんしてもらうんだ」
「そうそう、今のうち存分に甘えなさいね。あーあ、羨ましいなあ、千早先生もあーんしてくれる彼氏が欲しいー」
「……あんたたち、いい加減にしような」
僕はふたりの乗りに呑まれて、かなりの美人である雪里女史が未だ独り身なのは意外だ、などと思いかけた頭をぶんぶん振ってどうにかリセットした。横たわる真珠の頭のすぐ左脇に先生が置いたお膳を顎で差した。上体を起こせないので今はまだ、この位置に置くしかない。
「これのどこがお洒落なんだ、スプーンで食べられるようにもれなくクラッシュされてるじゃないか。米だってべちゃべちゃのおかゆだし」
「でもわたし、おかゆ好きだもん」
「僕には到底理解しがたい。それに火曜のカレーの時はさすがに嫌だってだだをこねるくせに。……じゃなくて、先生は一体何をしに来たんですか」
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