第1章

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「……たとえば、半身不随になるようなことは、ありませんよね」 「可能性は無いとは言えない」雪里先生は無感情といってもいいほど淡々と告げた。「これから折れた腰椎をボルトで支える手術をすることになるわ。そのあとリハビリの段階で歩けるかどうか、要観察というところね」 「……そう、ですか」 「意識が戻ったら、声をかけてあげて。なるべくやさしく、でも何気なく。男の子なんだからわかるわね。……じゃあ、悪いけど他の患者のところに回らなくちゃくけないの、他に何か聞きたいことはある? 手短にお願い」  だから、彼氏じゃないんだって。その点がもっとも不可解だった。「その……」すこし考えて、雪里先生の言うとおり、僕は質問を簡潔にまとめた。 「どうして家族ではなく僕がここに呼ばれたんですか」 「真珠ちゃんののスマホ、」 「え」  雪里先生の澄んだ瞳には、憐れみとも憂いともとれる影がうっすらと差していた。 「あなたの番号しか登録されていなかったの」    *  とりあえずベッド脇にひとつきり置かれたスツールに腰かけて、眠る真珠の顏をぼんやり眺めていた。  真珠のスマホには僕の電話番号しか登録されていなかった。そんな事実に僕はさまざまな憶測を巡らせた。一見すると社交的で人なつこい真珠だが、本当は誰のことも信じることができなかったのだろうか。鳴らない電話を見つめて、孤独を噛みしめていたのだろうか。その中で僕の存在は……、  ……特別、だったのだろうか……。  そんなこと、喜ぶべきじゃない。けれど、けれど僕は……。  そのとき苦しげな真珠の顔が、いっそう苦痛に歪んだ。 「……う、」 「……真珠?」 「くるし、い、」  脱色されたかのような白い手で、酸素マスクを外そうとする。僕はとっさに立ちあがり、それを制そうとした。 「だめだ、外したら余計、苦しくなる」 「……だって、いや、なの、こんなの……え、」  僕の手が真珠の手に触れたとたん、閉じられていた青白いまぶたは震え、長い睫毛が動いた。虚ろな瞳が、どうにかこちらをとらえようとする。「……ルリ?」 「馬鹿、」気がつくと僕はいつもの憎まれ口を叩いていた。「この、死にぞこない」 「……ルリだぁ」  真珠はゆっくりと酸素マスクを顎まで引き下げ、秘密を打ち明けるようにクスクスと笑った。「わたし、とうとう飛び降りちゃった」 「知ってる」 「じゃあ、これもしってる?」 「何」
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