第1章

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「信号機って、びっくりするほどおおきいの」 「……」 「落ちるときにね、パールのブレスレットが引っかかって、いっしゅんぐんって体が止まったの。それで、救急車の中で、救命士さんがこれ、なんだろうって私に聞いたんだ」  真珠は点滴が繋がれていない方の細い左手をこちらへ差し出した。手の甲に、小さな銃弾で穿たれたような傷が生々しく残っていた。「パールがひとつぶ、皮膚に埋まっちゃったみたい。そう答えたら救命士さん、ここで取っちゃいましょう、って、ピンセットでね、」 「やめろよ、」  血なまぐさい話は得意ではない。でも真珠はなつかしい思い出話をするかのように、言葉を止めなかった。 「そのあとなんども意識が遠のいて、そのたびにビンタされちゃった。歩道橋からダイブなんて、やっぱりすこし怖くて、デパスを二十錠のんでたの、そのせいだとおもう」 「だったら、怖いんだったら……、なんで飛び降りたりしたんだよ」 「……しってたの」 「何を」 「あの高さからじゃ死ねない、って」 「……お前」  気がついたら僕は、両のこぶしを握りしめていた。責めるような口調を隠すこともできなかった。「なに呑気なこと言ってるんだよ。死んでいたかもしれないんだぞ……!」 「ルリはぁ、」言ったとおり体にまだ薬が残っているのか、それとも雪里先生が『強い』と表現した麻酔のせいなのか、真珠の呂律はやや回っていないような印象を受ける。緩慢な調子で、しかし瞳だけは僕を試すように濡れたような光を宿して、言った。 「ルリは、わたしが死んだら、いやだった?」 「……な、」  これまでも刹那的な言動を繰り返してきた真珠の、究極の問いのように思えた。だから僕は返事に詰まった。そのうち、点滴に取り付けられた小さな箱形の機材がけたたましいアラーム音を立て始めた。大柄な看護師がひとり、飛んでくる。 「体内の酸素濃度が低くなってる。だめよぉ、シンジュちゃん、酸素マスクは今あなたに必要だからつけてもらっているの。もう勝手に外したりしないでね」 「かんごふさん、痛い」真珠の口調は一転して弱々しいものになる。「せなかが痛い、こきゅうが苦しい、体があつい……」 「もうすぐ四十分経つわね」看護師はピンクの腕時計をちらりと見ると真珠の頭のあたりに転がっていたナースコールを押した。「シンジュちゃんの麻酔、追加お願い」
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