第1章

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 売店で買ったものをナースステーションの看護師に預け、真珠の病室にたどりついたのは手術開始の九時半ぎりぎりだった。   こんな時こそ強くいなければならないと思うのに、真珠は泣いていた。体のサイドで数カ所の紐を結ぶ、純白の手術着。ノースリーブからのぞく傷だらけの細い手には、全身麻酔用の太い点滴針が食い込んでいて痛々しいにもほどがある。白い脚も、この数日間にますます細くなったような印象を受ける。 「真珠。なあ、しっかりしろよ」  目のやり場に困った僕は、またもやいつもの毒舌モードに突入していた。僕は弱い。真珠を傷つけることで、どうにか自分を保っている。今、守りが必要なのはどう考えても真珠のほうなのに。「雪里先生が特別に都合してくれたんだ。手術が終わればずっと楽になる。だから笑って行ってこいよ」  真珠は点滴に繋がれた手でけんめいに涙をぬぐっていたが、すぐにいやいやをするだだっ子のように首を横に振った。 「だってルリ、なみだがとまらない、」 「どうした、怖いのか。らしくないこと言うんじゃないぞ」 「……」うん、と弱々しくうなずく真珠。だが僕は、かなり的外れな励ましをしたのだと二秒後には気づくことになる。 「あのね、さっきまで、ママが来ていたの」 「じゃあ、どうして泣いてるんだよ」 「お父さんが責めるんだって言うの。真珠がこんなことになったのはお前が悪いからだって」  真珠は母親のことはママ、父親のことはお父さんと呼ぶ。「ママは聞くの。そうなの真珠? お母さんが悪いの? お母さん、何がいけなかったの? お母さん……」 「もういい」僕は思わず真珠の言葉を遮って、その頭にぽんと手をやった。やわらかな髪に指を差し入れすっと撫でると、涙で冷たくしめった感触がした。ずっと泣いていたんだ。「もういいよ、真珠。お前が悪いんじゃない。お父さんもママさんもたぶん、悪くない」 「わたし、言ってほしかったの。痛かったでしょう、辛かったわねって。わたしのことをもっともっと考えて、同情して、みとめてほしかったの。それなのに、それなのに、」  ――僕じゃ、だめだったのか?  喉まで出かかった言葉をどうにか飲み込む。雪里先生が僕を立会人に選んだ理由が解ったような、やはり解らないような、ひどくもどかしい気持ちがした。 「ルリ、しってるでしょう? わたし、わがままなの。わたし、いけない子なの、だから」
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