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1―カザミ
異世界に転移してしまったのだとようやく理解した俺に、新たな事項が追加されてしまった。
ただでさえ現状を受け入れるのに精一杯だったのに、
「まじか」
これはさすがに見てない振りする事はできそうにないな。突如現れた黒い靄に思考が追いついていない中、それだけは辛うじて把握できていた。
現状では、この黒い靄は俺の腰に定位置を確立しているのか、移動しても腰から一定の距離を保ったまま追尾してくる。まるで俺の腰の位置がペストポジションだと言わんばかりに……
明らかに危険を伴いそうな見た目だが、今のところ直接的な危害を加える事も、及ぼすような事もなく、ただ当たり前のように浮遊している。
突然の出来事で思考が追いついていないからだろうか、両手を広げ太陽の陽射しを一身に浴びる俺は、悟りを啓いた僧侶のように大らかな心に満たされていた。
今なら舞い降りた天使に出会えそうな気がする。
「やばい……脳みそパンクしてるわ」
何が俺をそんな気分にさせたのか、未だ現実と向き合いきれていないようだ。
情けなく首を振った俺は、悟り気分を振り払った。
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