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僕は、その日、切り立った崖の上にいた。眼下では、海が激しい波を立てて岸壁に塩水を打ち付けている。
人気ない崖の上を、海風を感じながら歩いた。
すると、一人の女性が水平線を真っ直ぐ見つめているのを見つけた。
海風に髪がなびいて、うなじが覗く。
僕は、吸い込まれるように近づいて行った。
気配を、察したのか彼女は、振り向く。
残念。
僕は、彼女に語りかけた。
「こんにちは。どうしました?こんな所で。お一人ですか?」
彼女は、思い詰めた表情で口を開く。
「ええ、少し。一人になりたくて。」
僕達は、暫く海を眺めていた。
沈黙に耐えかねたのか、彼女は口を開く。
「私、生きるのが辛くて。死にたくて、ここに来たのです。」
素敵な事を言う。
彼女は、自分を裏切った男たちの話を始めた。
僕は、全く興味は、なかった。
適当に頷いていたが、彼女は気にも止めず話を続けた。
一通り話を終えた彼女は、虚ろな目で僕をみた。
「死にたいの。」
呻くように言った。
僕は、彼女の背中を押してあげることにした。
彼女は、驚愕の表情を浮かべながら、落下していった。
やがて、波の中に消えていった。
死にたいのでは、なかったのかな。
そんなに、驚くこともないのに。
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