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行きつけのバーに、よく会う女性がいる。
だからと言って話すわけではない。
よく見かけるから、目が合えば会釈くらいはする。
それ以外は、なにもなかった。
その日は、バーが混んでいた。
彼女の座るカウンターの隣しか空いてなかった。
必然的にその席座ることになった。
「このお店によく来てらっしゃいますね。」
彼女から、声をかけて来た。
「他に行く所もないもので。」
僕が言うと彼女は自嘲気味に笑う。
「私も、です。」
その日は、取り留めのない世間話をして別れた。
そんなことが、きっかけで、バーで会うと一緒に飲むようになった。
「小島直子です。」
彼女が名乗ったのは、5回ほど一緒に飲んだ時だった。
「西山雄一郎です。」
「へえ。」
「なんです?」
「イメージ通りの名前ね。」
「イメージ通り?」
「しっくり来ているってこと。」
彼女は、くだらないことを言ってよく笑った。
しかし、心から笑ってないように見えた。
皮肉っぽい物言いで、冷めた笑い方だったからかもしれない。
世間話より、悪態が増えて来た。
直子は、世の中に絶望していた。そこに生きているのが嫌だと言う。
基本的には、人間嫌いらしく余り友人もいないようだ。
でも、おめおめと生きている自分も憎んでいた。
生きる意味もなく、生きるのは辛いのだと言う。
直子の話は、くだらない世間話より、面白く思えた。
世間に無関心な、僕には新鮮だった。
直子は、殺したい憎い人間が沢山いると言う。
でも、誰も殺してない。
僕は、何人も殺しているが、誰も憎んでいなかった。
人を殺すのは、癖みたいなもので、憎しみなどはなかった。
動物で言う本能みたいなものかもしれない。
なまじ、直子のように憎しみがあると色んな感情があって簡単には殺したりしないのかもしれない。
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