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街道から、はぐれた情婦を探して旅の男がやって来た。彼は女をすぐに見つけた。エレオノーラが、らしくもなくはしゃいだ歓声をあげて男に飛びつく姿を、幾人かの村人が目撃している。
誰かとそっくりな赤金の巻き毛。青い瞳…
旅の女がいつの間にか占拠していた村はずれの空き家で夏が終わるまではと一緒に暮らし始めたその男は、北方から来た商人らしい。羽振りは良い。らしい…
どう見ても、その男が、アドリの父だった…
(そんなことは構わないが)と、愕然とするループ。
夏が終わればまた旅に出ると言う。彼らは、アドリアーナを連れて去るつもりではないか…
(実の両親のところへ、戻さなければならないのか…)
おてんば盛りの5歳になった育ての娘を見ながら秘かに哭くループ。
ほんの、すこし、目を離した隙だった…
「ぱぱ~! 見て~!!」
その声は、天から降ってきた。
天使のような娘が、いつの間にそんな所までよじ登ってしまったのか、高い樹の枝の上で…
両手を離して、「ぱぱ」に、手を振った…
天使のように、天からゆっくりと堕ちてきた…
どさり。
哭いても喚いても、折れてしまった細い首はもとには戻らなかった。
哭きむせぶ女の肩を抱いて寡黙に去って行く旅の男の姿に、ループは、自分が、むしろ、ほっとしている…ことに、気がついた…
これで、もう、奪われないで、すむ…
ループと女が正式に婚姻しておらず、洗礼も受けていなかった…ため、教会の墓へは入れられないと知って、さらにひそかに喜ぶループ。
部屋の窓からすぐ見える庭の一角にアドリの墓をつくって…
花を植えた。とてもたくさんの、花を…
その後もながく彼は生きたが、ずっと花のお墓を護り続けて、いつでもにこにこしていて、寂しそうには見えなかったと、その死後に村の者たちは語った。
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