ビハインド

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大学に入って、右も左もわからない僕に、いいことも悪いことも教えてくれたのは宮野さんだし、僕は宮野さんに悩み事を相談したけれど、宮野さんも僕にいろんな話を聞かせてくれた。中には「このこと、この世界で柊にしか言わないから。家族にも誰にも言ってないんだから、この話が漏れたらあんたのこと殺すからね」と言われたような秘密さえあった。なんとなく、僕はそんな風な時間を過ごす中で、宮野さんに対して、単なる先輩というだけではない、また違った特別な感情を抱くようになっていたのだろうと思う。 宮野さんが僕のことをどう思っているのかは、未だにわからないままだ。ただ、一度だけ言われたことはある。宮野さんが友人に「咲、あんたあの後輩の子とどういう関係なの」と問われたことがあるそうだ。宮野さんはコンマ数秒で「あいつにだけは絶対にそういう感情を持たない」と言い切ったという。僕は内心複雑な想いを抱きながらも「そうっすよね」と笑った。その時の宮野さんも、同じようにケラケラと笑っていた。 宮野さんは、本当は一体、僕のことをどう思っているのだろうか。そのことは、ずっと心のどこかで、抜けない棘となって残っていた。そしてもうすぐ、その棘は、壁に打ちつけられて錆びきった釘のように、いずれは老いて命が消え失せたこの身が火葬場で焼かれるまで、永遠に抜くことができなくなるのだろうと、僕は悟った。
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