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「宮野さん、落ち着きましょうよ」
「超落ち着いてるよ。あたし、超落ち着きクイーンだよ」
「落ち着いている人は自分のことをそんな風に形容しませんよ」
「ごちゃごちゃうっさいのよ、柊のくせに」
そうは言いながらも、宮野さんは自分の身体と共に僕の身体を前後に揺らすことをやめた。
「それで。言われた通りやめたけど、何かあんの」
わざとらしく咳払いをしてから、僕は小学生に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「いや、要するにですね」
「うん」
「大学を出れば、僕らだってただの大学生になるわけですよ」
「うん」
「だからとっとと店仕舞いして、さっさと飲みに繰り出せばいいわけです」
「あ? あー、うんうん」
宮野さんは相変わらず、僕の背中にヤドカリの貝殻のようにくっついているので、宮野さんがどんな表情をしているのか、僕にわかるはずもない。ただ、どちらかというと、もはや僕が何を言っているかなどどうでもよくて、僕が観念して「早く片付けて飲みに行きましょうよ」と言うことを待っているのだろうと思う。
背中に宮野さんの体温を感じたまま、僕は言った。
「ってことで、出店を片付けたら、飲みにでも行きますか」
「ほんと? 行きたい行きたい! よく言った、柊」
ほら。
僕が内心でそう呟くと同時に、宮野さんは僕の頭を、わしわしと撫でた。うーん愛(う)い奴愛い奴、などと適当なことを言っている。
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