ビハインド

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ビハインド

僕たちの住む北の街にも、短い夏がやってきた。 大学生である僕たちにとって、それは定期試験という、たった一度のペーパーテストのみで人物の良し悪しを決める旧世代の遺物が、卒業所要単位という人質をとってやってくる時期でもあるわけだが、それ以外にもひとつ、この夏という時期には、大きなイベントがあった。いわゆる文化祭というやつだ。 大学に入っても文化祭という表現で正しいのかどうかはさて置いて、それは毎年、文化祭の実行委員を中心として開かれる学内イベントである。 まさか大学生になってまで文化祭に携わることになるとは思っていなかったというか、大学に入ればそんなもの、日常の講義と同じように自由出席であって、別に行きたくなければ行かなくてもいいイベントなのだろう…と思っていたのだ。それもこれも、僕―百瀬柊(ももせしゅう)―が学生自治会執行部などという大仰な名前の団体に所属しており、なおかつその団体で副会長なんかに就いているものだから、それをスルーして一足早いプチ夏休みを謳歌するわけにもいかなかった。文化祭期間は講義が休講になるから、別に無理をして大学に来る必要もないのだが、一応は学内団体を取り仕切る団体なわけだから、自分たちが大学の文化祭に参加しないでどうするのか…という、半ば世間体を気にするような理由で、申し訳程度に屋台まで出しているのだから驚きである。 チアリーディング部やテニスサークルが、女子部員の巧みな胸チラや腿チラでメニューを完売にしていく中、我が学生自治会執行部は細々と、ソフトドリンクやら、かき氷やらを取り揃えていた。まあいくら北国とはいえど夏は暑いので、ちょろちょろと売れはするものの、バカ売れとまではいかない。ちなみに言えば、うちの大学の文化祭は、近隣の大学の中では珍しく、飲酒が許されている。酒でも置いておけば黙っていても売れるのだろうが、うちの団体が売った酒で問題が起きたらとんでもないことになる…という不文律のようなもので、僕らの店には酒類を取り揃えていなかった。
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