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目を開けて体を起こすと、広い窓一杯に夕焼けが広がっていた。
うちの校舎は東西に長く延びている。教室の窓は全て南向きだ。窓際の私の席から夕日そのものを確認することはできないけれど、オレンジ色の温かな柔らかい空気と共に、戸惑うように影を落とし始めた街が見渡せた。
一日の中で私が一番好きな、落ち着く景色だった。
…けれど。
いつの間に眠っていたのだろう。終わらせる筈だった宿題は、まだ大半手付かずのまま。
家に帰った後、閉ざされた狭い部屋で、家庭教師気取りの姉に好き勝手言われながら、残りの宿題をこなすのかと思うとどうにも気が重くなる。
しかし、これからここで取り組む気持ちには、もうなれなかった。
今日は、とにかく日が悪いのだ。毎日を生きていればこういう日だってあるだろう。
覚悟を決めて、今日の全てを諦めるのが一番効率が良いに違いない。
そんな後ろ向きの決断をしながら視線を窓から外すと、軽く笑ったアユクンが唐突に目に入った。
私のすぐ前の席の椅子に、後ろ向きに跨がっている。
アユクンの脱色した髪の毛が、残照を受けてキラキラと光を放ち、やたら綺麗だ。
アユクンの柔らかな微笑も、いつも通り、綺麗だった。
「気付かないもんだな」
声を掛けられてようやく、単なる情景の一部だった『アユクン』が現実感をまとう。
思わず肩が踊ってしまった。
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