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「なんか、教室覗いたら寝てる奴いたから。見てた」
私が無言でアユクンを見つめていたからか、私が問う前にアユクンが説明してくれる。
何だその、内容のない、理由とも言えぬ理由は。
などと脳内でツッコミつつも、そんな強気のセリフが私のアユクンへの気持ちの裏返しであることは自覚していた。
ただ、それをわざわざ本人の前で晒す必要などない。私は気のない返事だけ口にする。
「…そか」
「そーそー」
アユクンも面白そうに、テキトーな相槌だけ。
会話に何の発展性も感じられず、アユクンへの気持ちすら軽く面倒で、私は机の上を片付け始めた。
机の中の物を毎日全て持ち帰るのが私の変えられぬ習慣だった。迷うことなく、全てを鞄に詰め込む。
「じゃ、帰る。またね」
同じ姿勢で私を凝視している様子のアユクンへ、最後にもう一度、視線を向けた。
「ぁあ。また明日な」
軽い口調で返すアユクン。
アユクンの軟派そうな軽い笑顔はいつも通りで、しかしそれが今、夕日に染まった温かな空気の中でポツンと寂しそうな色をしているように見えた。
つい、見入ってしまう。
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