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「……父が……医者だったもので」
また少し胸が痛んだ。
「なるほどそういう事でしたか」
この時代、武士によっては女の身でありながら姓を名乗ることに腹を立てる者もいたかも知れない。しかし、沖田はそんなこと意にも介さない様子でにこりと微笑んだ。
「じゃあ、行きましょうか。あなたが幽霊じゃないことを証明しないと」
「幽霊?」
「来ればわかりますよ。こちらへどうぞ、お凛さん」
くすくすと子どものように笑う沖田の、背中まである総髪がふわりと揺れた。
ーーヒラメ顔って誰が言ったんだ……ーー
凛は思わずその姿に見とれてしまった。
月明かりがまるで沖田の姿だけを照らし出しているかのように見えるほど、彼女の瞳には、彼しか入ってこなかった。
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