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「さて……俺は巡察に行ってくる」
すくっと立ち上がった湯山の顔は、先程までのそれとは別人のように引き締まっていた。
黙って凛々しい顔をしていれば、鼻筋の通った、切れ長の目元が涼しい色男に見えなくもない。
誠は、江戸っ子湯山から湯山透巡査長へと見事に切り替わる姿を見せられる度に、この男に対して尊敬と敬愛を抱かずにはいられなくなるのであった。
「はっ!行ってらっしゃいませ! 」
誠は素早く立ち上がり、見事な敬礼で先輩を見送った。
……そして、湯山の乗ったパトカーが見えなくなって気付く。
「あ……。これ結局連れていかれるパターンだ……。全く、強引なんだから」
誠はため息を一つ零すと、おもむろに窓を開け、先程まで湯山が食べていた焼きそばの匂いを外に追い出し、業務日誌を書き始めた。
三月も半ばを過ぎると、だいぶ春らしい陽気になって、風も心地よい。
「春だなぁ」
窓からふわりと入り込んできた早咲きの桜の花びらを手に取ると、やんわりと微笑みながら呟いた。
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