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夕方、業務が終わった誠は、更衣室の前で湯山に呼び止められた。
「おう!誠!これから着替えか?」
「げっ、見つかってしまいましたか」
あわよくば逃げられないかと踏んで、わざわざ湯山と退社時間をずらした誠は、露骨に顔を歪ませた。
「おめぇの考えなんかとっくに見抜いてんだよ」
チャラリ。と湯山は人差し指の先にロッカーの鍵を踊らせた。
「あっ、それはっ! 」
食品サンプルのメロンパンのストラップが付いたその鍵は、間違いなく誠のロッカーの鍵だった。
「いつの間に!全くもう、警察官ともあろう人が他人の所有物を勝手に所持していいと思ってるんですか?」
「可愛い後輩の運命の出会いが掛かってる時はいいんだよ」
「なんですかそれ……。はぁ、わかりました。参りましたよ」
あわよくば……の作戦も見事失敗に終わり、こうまで自分の行動を読まれては、寧ろもう笑うしかなく、気付けば誠は負けを受け入れていた。
「俺に勝とうなんざ、100年早ぇよ! 」
「そうですね」
指先で鍵をクルクル回し、人好きのする笑顔で得意気に笑う湯山を見ると、誠も釣られて笑った。
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