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その晩、彼は不思議な夢を見た。
じめじめと重苦しい湿気を孕んだ空気。
足元を照らす提灯の心許ない灯。
彼は特に何を思うでもなく、ただその足元にぼんやりと光る灯を眺めていた。
周りには同じ服を来た人が二人と、色違いの人が一人。
彼と同じ服、浅葱色に白地のだんだら模様の羽織を着た一人が腰に据えた大小をしっかりと握りしめ、目の前の旅籠屋を睨みつけた。
「行くぞ」
白地に黒のだんだら模様の羽織の人のすぐ後ろに立ち、彼と共に旅籠屋の扉を開ける。
「新選組、御用改めであるっ!! 」
扉が開くと同時に、野太い声が旅籠屋の空気を揺らしたその瞬間、旅籠屋の主人の真ん丸に見開かれた目と目が合ったが、主人はすぐさま身を翻し、二階の客人に向けて叫んだ。
「お二階のお客はん方!御用改めですっ!! 」
「間違いない!ゆくぞ!! 」
主人の焦燥しきった様子にただならぬものを感じたのか、前を行く人が素早く二階へと駆け上がり、彼もそれに続いて
急な階段を一気に駆け上がり、二階の襖を勢いよく開いた。
「御用改めである!手向かい致せば容赦なく斬り捨てる!! 覚悟なされよっ!! 」
その声に合わせるように、腰に差した大刀を抜き静かに構えた。
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