前夜

4/60
前へ
/680ページ
次へ
土方はスッと手を伸ばすと、凛の顎を持ち上げまじまじと顔を凝視してきた。 「……!!」 凛は呼吸すらも忘れて、固まったように土方の目だけを見つめていた。 下手に目を逸らせば殺されるかも知れないと本気で思うほど、土方は目の奥までが新選組の鬼の副長だった。 鬼が、口を開く。目はまだ十分に凛を疑っている。 「第一、お前ぇこのナリは何だ?髪の毛なんざ、まるで異人みてぇじゃねぇか」 土方に軽く前髪を摘まれて、ハッとした。 凛の栗色の髪色は、この時代の人間にとっては見慣れないものに違いない。そして髪型もしかり。日本髪が当たり前のこの時代では、前髪を下げた編み込みのお団子頭なんて、不審者でしかないだろう。 「こっ……これは……その……」 何といいわけをしようかと、頭をフル回転させてみるが頭に浮かぶのはどれもイマイチで、どう考えても目の前の鬼を納得させるには不十分に思われる。
/680ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1182人が本棚に入れています
本棚に追加