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「さっきまであそこにいたのは、鬼の副長ではなく、石田村の歳三さんだった。その証拠に近藤さんのことを昔の名残で呼んでいたでしょう?」
「……確かに、勝っつぁんって……」
凛の呟きに沖田は柔らかく微笑む。
「でしょう?だから初めから貴方を追い出す気なんて無かったんですよ」
「だったら、あんなに睨まなくてもいいのに……」
とてつもなく怖かった。と、凛は口を尖らせて小言を漏らした。あれだけ怖い思いをさせられたのだから、少しくらい愚痴も言わないと気が済まない。
「近藤さんも言っていましたが、疑うのは土方さんの仕事なんです。悪く思わないでくださいね」
沖田は凛の気持ちを全て汲み取ったようにして、にこりと微笑むと、頭を軽く撫でた。
突然の優しい温もりに、凛は慌ててコクコクと首を振った。
「さぁ、一先ず今日はもう休みましょう。夜着は私の浴衣で良ければお貸ししますから」
沖田は綺麗に畳まれた藍色の浴衣を差し出した。
「あ……ありがとうございます」
浴衣を受け取りながら、凛の頭の中には色んな想いが巡っている。
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