前夜

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浴衣は何度か着たことがある。 祖母は毎日着物で過ごしていた人だったから、着付けも少しは習ったことがあった。 しかし、困ったことに男物の帯の結び方が分からない。 下帯まで結んだところでつい手が止まってしまった。 ーーどうしよう……。 そこへ、沖田の声が掛かる。 「お着替え済みましたか?」 「あっ、はい!……でも、あの……」 「どうかしましたか?」 「帯が……」 「……開けても?」 沖田はほんの少し襖を開けて、気遣わしげに声を掛ける。 「はい。大丈夫……です」 沖田は少しだけ顔を覗かせて、凛がある程度着替えているのを確認してから部屋に入った。
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