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出逢い
「涼川さん!聞いてる!?」
こちらは下町の風情が色濃く残る浅草の総合病院の三階。
その呼吸器科病棟ナースステーションで、看護師長の刺々しい声が涼川凛に突き刺さった。
時刻は午前八時。
申し送りのカンファレンスの最中にも関わらず、凛は上の空だった。
「えっ?はいっ!……なんでしたっけ?」
「いくら明けだからといっても、申し送りまでが、仕事なんですからしっかりしなさい!」
「す、すみませんでした……」
ごもっともな師長のご指摘に、凛は身体を縮込めて申し訳なさを示した。
「分かればよろしい!では、申し送りお願いします」
師長がニコリと笑いかけてくれたのを見て、凛はしゃんと背筋を伸ばし看護記録に視線を落とすと一呼吸置いて読み上げる。
「昨日オペだった竹原さんですが、深夜二時に痛みの訴えがあり、エピを追加しました。その後は特に訴えもなく、バイタルも安定しています。術創のガーゼ交換は七時に交換済です。次に三〇五号室の山田さんですが……ーーー」
淡々と申し送りをこなす。否、こなせるようになったのは、まだまだつい最近のことかも知れない。
凛は高校を出て、定時制の看護学校へ進学し、四年かけて看護師になった。そのため、この病院へ勤めてこの四月でようやく一年が過ぎた所だった。
まだまだ新人気分だった彼女も、後輩が出来て三ヶ月ほど経ってやっと一人前に……とまでは言わなくとも、少なくとも、カンファレンス中に他のことを考えられるくらいには余裕が持てるようになった。
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