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普通、この手の「誰それから聞いた」という噂話は、それを語って聞かせた人間を順に辿っていってみたところで、「友達の友達から」だとか「知り合いの兄弟のそのまた知り合いから」だとかいう風に、どこまでいっても当の体験者本人に行き着くことはできず、結局はうやむやに終わってしまうのがオチである。
それが、あたかも実際にあったことのように語られる噂話――即ち世にいう〝都市伝説〟の都市伝説たる所以なのだ。
ところが、今回はその体験者本人に予想外にも辿り着いてしまった……ということは、この信じ難い話にもそれなりの信憑性があるということなのだろうか?
「やっぱり、せめてお茶だけでも入れようか…」
いまだに半信半疑な心持ちで、内心、そのようなことをつらつら考えている内にも、浦島氏は申し訳なさそうな顔をして腰を浮かそうとする。
「いえいえ、なんのおかまいもなく……あの、さっそくですが、お墓から蘇った人間を見たというのは本当ですか?」
そんな律儀な老人を手で制すると、私はレコーダーの電源をONにしてテーブルの上に置き、手帳とペンを構えながら早々本題を切り出すことにした。
「…………ああ、確かにこの眼で見たよ。まあ、聞いてもすぐには信じられないかもしれないがね。わしだけじゃない。他にも大勢の村人が見ている」
その質問に老人は少し間を開けると、あまり思い出したくはないような、それでいて、なんだかその当時を懐かしむような優しげな眼をして、私の顔をじっと見つめながらおもむろに口を開いた。
その真剣な口調は、とてもホラを吹いているようには思えない。少なくとも本人の中では、それが真実と信じて疑ってはいないようである。
「その時のことを、詳しく聞かせてくれませんか?」
「そうさの……あれはまだわしが子供時分の話だ……今じゃそのことを知る者も墓の中に入るか、どこか他所へ引っ越してしまって、わしぐらいしかいないだろうがの」
改めて尋ねる私の言葉に、老人はこちらへ視線を向けながらも、どこか遠くを見つめるような眼差しで昔語りを続ける。
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