生ける屍

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「ああ、棺桶を内側から叩いているような音だ。前日、弔いをすませたばかりの五郎蔵の墓からだよ? それを聞いた村人は急いで和尚さんや他の者達を呼びに行き、それはそれは大騒ぎになった。〝五郎蔵が化けて出た〟……とね。ただ、和尚さんや他の村人達が駆けつけた時にはもう、その音はしなくなっていたんだそうだ」  なるほど……それで〝墓から蘇った〟というわけか……だが、それでは自分の目でみたわけではないし、いや、その前にそもそも……。 「でも、一人しかその音を聞いていないということは、その人の空耳だったってことはないんですか?」  私は、今の話を聞いて疑問に思ったことを素直に尋ねた。 「まあ、普通はそう考えるだろうね。確かにその時は村人達も、最終的には今、あんたが言ったように判断して、事件はただの勘違いということで一件落着となるかに思われた……でもね、事はそれだけに終わらなかったんだよ」 「終わらなかった? まだ何か起きたんですか?」  予想を上回る返答に、私はまたしても訝しげな表情を浮かべて訊き返す。 「起きたなんてもんじゃない。その後も、五郎蔵の墓の下から奇怪な物音がするのを聞いたという者が続出したんだよ。いいや、それどころか、もっと恐ろしい目にあったという者まで現れた……」  どうやら、私の下した判断は早合点だったようである……これは、そんなただの勘違いですむような話ではないのかもしれない……。  内心、わずかな動揺を覚えている私を他所に、浦島氏は遠い日の失われた故郷を見つめるような眼差しをしたまま、さらに奇怪で恐ろしげな幼少期の体験談を語り続ける。 「最初の被害者は五郎蔵の奥さんだ。夜中に、墓で眠っているはずのヤツが家まで戻って来て、寝ている奥さんの首を絞めていったというんだな」 「つまり、墓の怪音を聞いただけじゃなく、その蘇った五郎蔵に会ったというんですか?」  音の怪異だけじゃなく、見て、しかも接触する怪異まで起きたというのか? これは、ますます怪談じみてきたな……。
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