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「ああ、それも奥さんばかりじゃない。次には彼の息子や娘、それから親戚、彼の家の隣近所に住んでいる者……と、墓を抜け出した五郎蔵に襲われる者が次から次に現れた」
その上、個人的な体験ではなく、複数人が同様の体験をしているというか? ……まさか、本当に超常現象なんてことはないと思うが……。
私は人文科学者としての論理的視点と、その突きつけられた確たる証言との狭間でユラユラと揺り動かされながら、次第に老人の語る怪異譚に夢中になってゆく。
「そして、彼に襲われたという者は次第に衰弱し、中には重い病にかかって死亡する者まで出始めた」
「ほ、ほんとに犠牲者まで出たんですか?」
「ああ、そうだ。最早、五郎蔵が化けて出たことに間違いはない。しかも、首をしめたって言うからには普通の幽霊じゃないぞ? 足もあれば肉体もある、いわば〝生ける屍〟のようなもんだな」
驚く私の質問に、老人はどこか得意げな様子で、まるで自分のことを自慢するかのようにそう嘯いてみせた。
生ける屍……なるほど。確かに現代のイメージでいうところの〝ゾンビ〟だ。
だが、その死んだ人間が蘇り、墓を抜け出しては人を襲うという話は、やはり東欧諸国で云い伝えられている〝吸血鬼〟の姿の方が似ている……というか、そのものと言ってもいい。
……いや、待てよ。だとすれば、その蘇った五郎蔵という男は……。
その時、私の脳裏にはある不吉な予感が不意に過るが、老人の話はさらに続く。
「そこで、村の者達は話し合った末に五郎蔵の墓を掘り返してみることにした。するとどうだ? 五郎蔵の死体は腐るどころか、まるでまだ生きててでもいるかのようじゃないか」
まるで生きているよう……それって、やっぱり……。
「とても死人のものとは思えない血色のいい赤ら顔で、指には古い爪が?げ落ちて新しいものが生えてきておった。その上、その指先や眼鼻口なんかは真っ赤な鮮血に染まっていて、さらには遺体が着ていた経帷子や棺桶の蓋までが血だらけになっておった」
……やっぱり……やっぱり、私の思った通り五郎蔵は……。
浦島氏の語る細かい遺体の描写に、ぼんやりとしていた私の不安は確信へと変わる……だが、そんなに詳しく話せるということは、自らもそれを見たということか?
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