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「わしら子供は見るなと言われていたが、怖いもの見たさというやつでな。こっそり大人達の影に隠れて、そのおぞましい姿を確かにこの目で見たんだ!」
浦島氏は自分の語る話に息遣いを荒くし、顔もほのかに赤らめながら段々と興奮しだしている。
きっと今、彼の脳裏にはその時の情景が鮮やかに蘇っていることであろう……それは、幼い子供が見るにはあまりに不向きな、とてもグロテスクで恐ろしいものだったに違いない。
「そんな五郎蔵の姿を見た大人達は、そりゃあ恐れ慄いてていたさ。腰を抜かす者や発狂して泣きわめく者までいた。死んで清々したどころか、あの乱暴者だった五郎蔵が今度はバケモノになって自分達を苦しめに帰って来たんだからな」
それは、生前から五郎蔵を恐れ嫌っていた大人達にとっても同様だったのだろう……いや、いたずらに生きている頃の彼を知っている大人たちの方が、むしろその恐怖と衝撃は激しいものだったのかもしれない……。
だが、その生きているように見えたというのは……。
「そこで大人達は、村にいた拝み屋のばあさんの指示に従って、五郎蔵の死体にバケモノ退治のマジナイを施したんだ」
いや駄目だ! そんなことをしてはっ!
恐れていたその最悪の結末に、すでに過ぎ去った遠い昔の出来事ではあるが、私は心の中で思わず叫んでしまう。
「つまり、魔物と化したヤツの心臓に魔除けの鎌を打ち込むという昔ながらのマジナイをな」
……本当に、そんな恐ろしい行いをしてしまったというのか?
「キラキラと光る鎌の刃がヤツの心臓を貫いた瞬間、五郎蔵は短い呻き声を上げ、胸からは死体とは思えないほどの大量の血が吹き上がった。瞬く間に辺り一面真っ赤な血の海だ。わしは幼心にもその時の地獄絵図を鮮明に憶えているよ。いや、ありゃあ、忘れたくとも忘れられない光景だな……」
その凄惨な場面を思い浮かべ、私は不快に顔の筋肉を歪めた。
確かに彼ら村人の目からすれば、その古田五郎蔵という男は〝蘇ったバケモノ〟以外の何ものでもなかったに違いない……。
だが、おそらく彼はバケモノでもなければ、死んで蘇った〝生ける屍〟なんかでもない。
いや、それどころか彼はたぶん、鎌を胸に突き刺されるまさにその瞬間まで、冷たい土の下で〝まだ生きていた〟のだ!
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