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「一番大切なのは信頼だ。どんな仕事でも一人じゃ成立しない。売り手と買い手があるからこそ仕事は成立する。サービス業で言えば、笑顔で丁寧に接客する事が信頼へと繋がるんだ。接客が気持ちのいい店って、もう一度行きたくなるだろ? じゃあ、もう一つ質問するぞ。食事を提供するサービス業の一番の天敵って何だと思う?」
「天敵? クレーマーとか? ……あっ、分かりました! ライバルとなる店ですよ。つまり競合店ですね」
「違うよ。一番の天敵は菌……ウイルスだ」
ウイルス?
「未来も外食はするだろう? その店で食中毒が出たらどうする?」
「あっ!?」
理解して声が零れた私を横目に、店長は丁寧に手を洗い始めた。
「そんな店には、もう行かないだろ? 飯屋を潰すには食中毒を出すのが一番早いんだ。どんなにお客様との信頼を築いても、一瞬で全てを失くしてしまう天敵なんだよ。だから信頼を失くさない為に、手洗いは最も重要な仕事の一つだ」
今度は違う意味で顔が赤くなる。手洗いくらいなんて思っていた自分が恥ずかしくて、店長が手洗いをしているところに無理やり割り込んだ。
「頑張ります!」
「その意気だ」
再び店長がニコッと笑う。その笑顔が可愛くて、私は咄嗟に視線を逸らした。
「店長。未来ちゃんと話すのはいいですけど、次のお客様のピザがあがってますよ」
「なっ!? 里子、何でそれを早く言わないんだ!」
「カッコよく決めて、自分に酔いしれてる店長には声を掛けづらいんですよ。今の時間は店長しかデリバリーがいませんからね。さあ、早く行って下さい」
「くそっ、覚えてろよ! ……安全運転で行ってきます!」
慌ただしく出て行く店長を見送り、里子さんが笑い声を上げた。
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