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「騒がしいでしょ? 聞いたと思うけど、この店はデリバリースタッフが極端に少ないの。それに、インストアの数はそれなりにいるけど……ピザを作れるのは店長と私しかいないのよ」
「二人だけ!? それで大丈夫なんですか?」
「売れないからね。今のところは大丈夫だよ」
売れない? この店、大丈夫かな?
新たな不安を抱えつつ里子さんの話を聞いていると、五分もしない内に店長が帰って来た。
「安全運転で行ってきました!」
「早っ!!!」
「近場だったからな。それより、里子。ついでに声掛けも教えてやれ」
「了解です」
声掛けって何だろう? わざわざ安全運転ってアピールする事かな? それはそれでウザい気がする。
「未来ちゃん、安全運転で行ってきましたって聞いて、ちょっとウザいと思ったでしょ?」
心を読まれた!?
「私も初めて聞いた時はそう思ったわ。でも、デリバリーは必ず言う決まりなの。出て行く時は『安全運転で行ってきます』。帰った時は『安全運転で行ってきました』ってね」
「手洗いと一緒で理由があるのですか?」
「店長が言うにはね、宣言する事でデリバリースタッフ本人の決意表明に繋がるって言うの。安全運転しなかったのに、大きな声で『安全運転で行ってきました』なんて、ちょっと気が引けるでしょ? デリバリーは最悪、命に係わる事故も考えられる……だから当たり前だけど、色々な取り組みをしてるわ。声掛けはその中の一つね。そしてインストアの私達は『行ってらっしゃい』、『お帰りなさい』って返すの。店の雰囲気も明るくなるし、事務所に居ても誰が外に出たのか瞬時に分かるって、新美店長になってから徹底されてるのよ」
成程ね。今回は素直に納得できた。仕事仲間が事故で帰って来なかったなんて、とても耐えられない。
でも……私は分かったつもりでいたけど、この時は本当の理解をしていなかったんだ。
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