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「じゃあ、電話対応を覚えましょうか」
里子さんに連れられ、電話が配置してあるカウンターへと移動する。そこには、綺麗に並べられた固定電話が三台あった。
「三台もあるんですか?」
「これでも少ないらしいよ。店長が東京で研修していた店舗は五台あったらしいからね」
「五台!? 都会、恐るべしですね」
電話の数には驚いたが、店長が東京に居たと言う話の方が頭に残る。東京ってだけで凄く感じるのは何でだろう? 子供の頃は大自然に囲まれた田舎で暮らしていたからだろうか?
「これが電話対応のマニュアルよ。電話の横に置いてあるから、初めはマニュアルを見ながら対応すればいいの」
ラミネートされた紙面には、基本的な話し方と流れが丁寧に書かれていた。
「あの、質問してもいいですか? 最初の『お電話有難う御座います。担当の〇〇がお伺いいたします』ってところなんですが、なんで自分の名前を言うのですか?」
「俺が答えてやろう」
出た、店長だ! 気配を殺して背後に回るから、毎回驚いて心臓がキュッとなる。
「電話は相手の顔が分からないだろ? 初めて電話する人なんかは緊張している場合が多い。そこで名前を言う……即ち、最初から素性を明かす事によって信頼感を与えるんだ。人は名前が分かるだけでも警戒心を弱めるからな」
分かる気がする。私もアルバイトの電話を掛けた時、里子さんが川本ですって言ってくれたから少しだけ安心した。
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