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「着いたぞ」
店長の声で現実に引き戻される。目に映し出されたのは私の家だ。
「どうした?」
「店長……まだ帰りたくない……」
「えっ?」
もうすぐ日が暮れる。店長は店に行って仕事をするのだろう。もう十分楽しんだ。引き留めちゃいけない。明日になれば、また会えるんだ。
「えっと……その……何でもないです。今日はありがとうございま……」
「分かったよ。近くの公園でも行くか?」
「いっ、行きます!」
その公園は、ポスティングを教えて貰った時に来た公園。あの時と同じく、店長がオレンジジュースを買ってくれた。
たった数か月前の事なのに、懐かしさとドキドキが混ざり合う。
「ねえ、店長……私って可愛くないよね?」
「いや、可愛いよ」
「それはアルバイトスタッフとしてですか? それとも、妹みたいなもの? 一回りも年下だけど、私の事を恋愛対象として見れますか!?」
感情が昂って涙が溢れた。どうしようもないくらい好きになってたんだ。
「……恋愛に歳なんて関係ないと思ってる……だけど……」
「だけど?」
「もうすぐ三十歳だからな。結婚を考えたいんだ」
「私が結婚してあげる!」
「まだ高校一年生だろ?」
「十六歳になったら結婚出来るもん!」
一歩も引かない、引けない! 玉砕してでも、全てをぶつけるんだ!
「高校は卒業しろよ」
「結婚しても通えるよ」
「そういう問題じゃなくて……」
「無理ならハッキリ言って!」
……
……
沈黙が痛い。店長が何を言うのか分からなくて、胸が潰れてしまいそう。でも、目を逸らしちゃ駄目なんだ! 夕闇に包まれても、ハートが痛くて悲鳴を上げても、絶対に目を離さない!
「……分かったよ。じゃあ、こうしよう。未来が高校を卒業する時に、俺から告白する。それまでに考えが変わらなかったら結婚しよう」
「本当!?」
「ああ、約束する。でも、俺はもうすぐ三十だぞ? いいのか?」
一瞬止まった涙が再び溢れ出し、声が出なくて何度も頷いた。そんな私の体を店長の腕が包み込む。
鼓動の高鳴りが更なる急加速を始めた。どうすればいいの?
店長の腰に手を回し、顔を見上げて目を閉じる。
そして、優しく唇を重ね合わせた。
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