約束

2/3
前へ
/80ページ
次へ
「着いたぞ」  店長の声で現実に引き戻される。目に映し出されたのは私の家だ。 「どうした?」 「店長……まだ帰りたくない……」 「えっ?」  もうすぐ日が暮れる。店長は店に行って仕事をするのだろう。もう十分楽しんだ。引き留めちゃいけない。明日になれば、また会えるんだ。 「えっと……その……何でもないです。今日はありがとうございま……」 「分かったよ。近くの公園でも行くか?」 「いっ、行きます!」  その公園は、ポスティングを教えて貰った時に来た公園。あの時と同じく、店長がオレンジジュースを買ってくれた。  たった数か月前の事なのに、懐かしさとドキドキが混ざり合う。 「ねえ、店長……私って可愛くないよね?」 「いや、可愛いよ」 「それはアルバイトスタッフとしてですか? それとも、妹みたいなもの? 一回りも年下だけど、私の事を恋愛対象として見れますか!?」  感情が昂って涙が溢れた。どうしようもないくらい好きになってたんだ。 「……恋愛に歳なんて関係ないと思ってる……だけど……」 「だけど?」 「もうすぐ三十歳だからな。結婚を考えたいんだ」 「私が結婚してあげる!」 「まだ高校一年生だろ?」 「十六歳になったら結婚出来るもん!」  一歩も引かない、引けない! 玉砕してでも、全てをぶつけるんだ! 「高校は卒業しろよ」 「結婚しても通えるよ」 「そういう問題じゃなくて……」 「無理ならハッキリ言って!」  ……  ……  沈黙が痛い。店長が何を言うのか分からなくて、胸が潰れてしまいそう。でも、目を逸らしちゃ駄目なんだ! 夕闇に包まれても、ハートが痛くて悲鳴を上げても、絶対に目を離さない! 「……分かったよ。じゃあ、こうしよう。未来が高校を卒業する時に、俺から告白する。それまでに考えが変わらなかったら結婚しよう」 「本当!?」 「ああ、約束する。でも、俺はもうすぐ三十だぞ? いいのか?」  一瞬止まった涙が再び溢れ出し、声が出なくて何度も頷いた。そんな私の体を店長の腕が包み込む。  鼓動の高鳴りが更なる急加速を始めた。どうすればいいの?  店長の腰に手を回し、顔を見上げて目を閉じる。  そして、優しく唇を重ね合わせた。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加