22人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
店長の予想通りで、クリスマスイブの昼間の売り上げは、普通の日曜日と変わらなかった。
全員が早めの休憩を終え、夕方には配置へと着く。予約のピザを作り出すと、注文の電話も少しずつ鳴り始めた。そこからは戦争だ。鳴り止まない電話、大量の注文、絶えずピザを作り続けるインストアに、ひたすら走り続けるデリバリースタッフ。
そんなピークを迎えた時、新人の電話対応のスタッフが泣きそうになりながら店長を呼んだ。
「店長……その……」
「どうした?」
「長尾君が信号無視をしたってクレームが入ってます……凄い剣幕で店長を出せって……」
店舗にいた全員の動きが一瞬止まる。
「……里子は俺の代わりに生地作りへ入れ。代わりにサイドメニュー担当はトッピングを頼む」
最低限の指示を出し、店長は青ざめた顔で受話器を手にした。
「お待たせしました、店長の新美と申します。はい……はい……誠に申し訳ございません……今すぐ……はい……」
気になってしまい、みんなの動きが鈍る。そして、店長が受話器を置くと一斉に視線が集まった。
「事故ではないらしい。ただ……大きな事故になりかけたらしく、長尾を捕まえてお怒りの状況だ。すぐに謝罪をしなければならない」
事故では無かった。それだけで安堵のため息が出る。でも、店長が抜けたらこの店はどうなるの?
「デリバリーは予約を優先して運べ。電話担当は一時間半から二時間待ちだと、お客様に伝えてくれ。なるべく早く戻る……里子!」
「分かってます。早く行ってあげて下さい」
「すまない……」
鳴り止まない電話を背に、店長は車を走らせて行った。
最初のコメントを投稿しよう!