クリスマス

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 一時間後、店長と長尾君が無事に戻って来た。 「里子、状況は!?」 「予約は問題ありませんが、普通の注文でキャンセルが続いています」 「よし、元の体制に戻すぞ! 電話担当は待ち時間を一時間に変更して伝えろ。長尾も次の配達へ向かうんだ」  的確な指示が飛び、すぐに元の状態へと戻った。そしてピークが終わると、スタッフが二人ずつ交代で休憩を取る。他のメンバーは片付けと、次の日の準備だ。イブが終わればクリスマス本番。まだまだ、気が抜けない。  必死に片付けをしていると、私の休憩の順番が回ってきた。  一緒に休憩するのは……長尾君だ。 「長尾君、お疲れ様」 「お疲れ……なあ、長谷川。俺と店長が何をしてきたのか気になるだろ?」  勿論、気になっていた。でも、そんな事は聞けない。 「内緒だぞ」  罪の意識があるのか、少しでも気を楽にしたいのか、長尾君は淡々と話し始めた。 「忙しかっただろ? それでさ、俺……渋滞で焦っちゃってさ……普段は使わない裏道を走ったんだ。それで左折したら……すぐに信号があって……気が付いた時には止まれなかった。事故にはならなかったけどさ、ぶつかりそうになった車の運転手に呼び止められて……逃げようとしたけど……店長を思い出して止まったんだ。何かあったら、逃げずに俺を呼べって……店長がいつも言ってたから……」  その言葉は聞いた事がある。事故を起こしても、危険な目に遭っても、逃げずに連絡しろと店長は口煩く伝えていた。
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