手洗い・声掛け

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 面接を受けてから三日後の土曜日。今日はアルバイト初出勤だ。店に入って元気に挨拶すると、里子さんが笑顔で迎えてくれた。 「暫くは一緒に付いて教えるね。じゃあ制服に着替えて、手洗いから始めましょうか」  可愛らしい制服に着替えてエプロンを着け、会社のロゴが入った帽子を被る。それだけで、何故か誇らしい気分になるのは私だけだろうか?  続いて手洗いなのだが、菌を厨房に持ち込まない為にと、念入りに教え込まれる。  たかが手洗いだと侮っていた。  先ずは水で肘近くまで洗い流す。そして専用の石鹸で手のひらから腕までゴシゴシ擦る。次に手洗い用ブラシなるもので手のひらの溝や爪の中を綺麗にする。水で綺麗に流し、菌の増殖を防ぐ為に使い捨てのペーパータオルで拭く。最後にアルコールで消毒して完了。所要時間は一分以上だ。 「おっ、やってるな」  振返ると店長が腕を組んで笑っている。手洗いくらいで必死になるところを見られて、恥かしさで顔が赤くなった。  俯いてしまった私を覗き込み、店長は何故かニコッと笑う。 「未来に質問するけど、仕事をするのに一番大切なものって何か分かるか?」 「えっ? 大切なもの……売上ですか?」 「ああ、売り上げは大切だな。だけど、一番じゃない」  何が言いたいんだろう? 手洗いを止めて話す事なのだろうか?
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