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「どうして認めないの?」
彼女は無意味な除雪作業をやめて立ち止まった。それから、まっすぐに俺を見据えた。
鋭い眼差しだった。
「知らないから」
俺はただ彼女を見つめていた。
「でも思い出してるんでしょう?」
「思い出してる」
「だったら」
「知らない」
俺の答えは変わらない――――変えては、いけないのだ。
相変わらず雪は降り続いている。足先が凍えて、徐々に冷たいという感覚が痛いという感覚に変わっていく。俺はゆっくりとその場で足踏みをした。靴の上に積もっていた雪を落とす。逆に彼女は雪を落とすやる気をなくしたようだった。酷く歪んだ表情で、じっと俺を見つめている。見方によっては、泣き出しそうな顔にも見えた。
「じゃあ、教えてあげるよ。何があったか」
彼女は酷く冷めた目をして、ぽつりと言った。
「私が言ったら、それが貴方の記憶と重なったら、認めて」
「何を」
「私のこと、貴方のこと、私たちのこと、全部」
俺は答えなかった。重なるに決まっていると思ったから。今までの繰り返しの中で、彼女の語ることと俺の思い出したことが合わなかった、という出来事は今までに一度もない。恐らくは、これから先もない。
「この世界を終わらせたのは、」
彼女だ。
「私」
ほら。
「でも、それは私の意志じゃない」
彼女は苦しげだった。彼女の右腕がそっと持ち上がって、痛みを堪えるように左腕を握り締める。
「私が貴方のことを思い出した時、勝手に世界は燃える。私の意志とは関係なく、唐突に……そして私が焼いた世界の灰から、貴方が目覚める」
知っている。毎度、そうしてきた。
目覚めた俺は彼女に誘われるままここへ上がり、こうして彼女と話を聞き、彼女の願いを聞く。俺たちの間で繰り返されてきたことだ。それは淡い雪のように、降ることはあっても積もりはしない。溶けて、なかったことになる。俺たちの時間は、重ねる度になかったことになる。
――――ただ、彼女が知っているのはそこまでだ。
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