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「……ねぇ、合ってるんでしょう?」
「何と」
「貴方の記憶と」
語り終えた彼女はそう訊いて、ほとんど縋るような目で俺を見ていた。俺と彼女の間に雪が舞う。欠伸の出そうな程緩慢に。
そうだ。俺の記憶と彼女の話に齟齬はない。俺たちは確かに、繰り返されてきたそれの記憶を共有している。俺の記憶は夢なんかじゃない、本物の「経験」の記憶だ。そんなこと、嫌という程分かっている。彼女だって分かっているはずなのだ。それでも彼女は、俺がそれを認めることに執着する。何度も何度も、彼女は俺に認めることを迫る。
彼女は覚えていないのだ。記憶が欠けているのは彼女の方だということを、彼女は知らない。
「……合ってるよ」
思ったより諦念を含んだ声が出た。
彼女の顔が輝く。きっとこの辺りから彼女の記憶は曖昧なのだろう。これもまだ、繰り返しの一部だというのに。
「でも、認めない」
「どうしてっ」
彼女の声は最早叫びに近かった。
「どうしてそんなこと――――」
「むしろどうして」
「えっ」
完全に予想外だったのだろう、彼女はほんの僅かに不安げな表情を見せた。俺の推測が確信に変わる。
今回の彼女は、ここから先を「覚えていない」のだ。
「どうしてそんなに認めて欲しいの」
だからこそ、俺はいつものシナリオ通りに。
「それは……」
「それは、俺があんたと過ごした時間を認めることが、あんたの中にある《鍵》の消滅に関わるから。世界の終焉を引き起こす《鍵》が、それで消えるから。だろ」
要は死にたいんだろ。吐き捨てるように、心の中でそう付け足す。
本当は失望も怒りも、何一つ湧いちゃいない。いつだって俺の中にあるのは諦念だ。何も変わらない、何も変えられない、気付いた時には既に、この台本の上に乗せられている。それは彼女のせいでも俺のせいでもなく、誰のせいでもない、ただ「世界がそういう仕組みになっているから」という、ただそれだけのことで。
彼女の唇は寒さで悴んだ色をしていた。氷の彫像か何かのように、色を失って凍りついている。僅かに揺れる髪と降り続ける雪だけが、辛うじて時間の流れを感じさせた。
彼女に向かって、一歩を踏み出す。
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