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 藤崎の通夜から帰宅した詩織は、夕飯を食べる気力もなく、ベッドへとダイブした。  静かに目を閉じると、藤崎が階段から落ちていくシーンが鮮明に浮かび上がる。  平凡、平穏どころか、底辺で這っているような、何の起伏もない日々を送っていた詩織にとって、この二日間は刺激的と言うには、あまりにも衝撃的な出来事の連続であった。  初めに目撃した交通事故は、後から知ったのだが、亡くなったのは視覚障碍者だったらしい。  音響装置の音と、誰かのスマホの着信音とを勘違いしての不幸な事故として片付けられたそうだ。  そのスマホの着信音が誰のものであったのかは、警察も突き止められていない。  とはいえ、例え、それが誰のものか突き止められたとして、その人に悪意があったわけではないのだから、罪に問う事も出来ないので、この件は、きっと長くは捜査されることなく、いつの間にか忘れ去られるであろう。  そして、藤崎の死。  警察や鑑識の出入りが激しく、校内は一時騒然としたものの、こちらも、「慌てて階段を駆け下りようとした藤崎が、足を踏み外して落ちた」と、多くの生徒達の目撃証言が全て一致したので、事件性は皆無だと警察は判断した。 「……疑っちゃ悪いけど……まさか、阿川さんが?」  二つの事故を思い出し、ブルッと体を震わせた詩織は、「そんな、まさか……ううん。そんなわけない。全部、偶然よ。その証拠に彼女は一切、被害者に手を触れていなかったじゃない。第一、殺す理由が見つからないわ」と自分に言い聞かせるように呟き、制服を着たまま布団の中で丸まった。  素人があれやこれやと推理したところで、既に警察は事故として片付けたこと。  今更どうにもならないし、それなら、さっさと忘れてしまおうとすればするほど、詩織の頭の中には、赤い原色の世界がチラついて、中々眠りにつくことが出来なかった。
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