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 あまりに生々しい現場を目の当りにしているせいか、脳が現実を捉えることを拒否し、パックリと割れたザクロから、赤い実と新鮮な果汁が飛び散っているような幻覚をもたらす。  呆然と立ち尽くしていると、「大丈夫かっ!」という大きな声が響いた。  運転席から血相を変えて出て来たトラックの運転手が、道路に横たわりピクリともしない塊へと駆け寄る姿が目に入った。  漸く、今起きた事故が現実のものだと認識できた詩織は、無意識のうちにガクガクと震えだしたものの、「け、警察……う、ううん。救急車っ!」と言ってスマホを取り出すが、その手を誰かが止めた。 「え?」  手首を掴む人物が目に入った途端、息を呑み込む。  そこには、居る筈のない阿川の姿があった。 「生と死って、隣りあわせよね」 「は?」  街路灯に照らされた彼女の顔は、興奮しているのか、頬に赤味が差し、凄惨な事故現場に相応しくない、恍惚とした表情をしていた。  人が一人死んでいるのに、不謹慎なことを言う彼女を訝しげな目で見つめると、彼女はフッと笑った。 「あら。私、中島さんなら分かってくれると思ったんだけどな」  軽い口調で話す彼女は、「このままここに居たら、目撃者として警察署で根ほり葉ほり聞かれて、解放されるのは深夜よ」と言って、詩織の手首を持つ手にギュッと力を入れると、そのまま引っ張るようにして歩き出した。 「中島さんはさ。私のこと、人殺しだと思っているんでしょう?」  自分の方を振り返らず、淡々と話す彼女の声を聞いて、さっきお婆さんに声をかけた女性は阿川だったのだと認識した。
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