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「おはよう。中島さん」  下駄箱でふいに背後から声をかけられ振り返ると、そこには阿川がにっこりと微笑んでいた。  いつも大勢の取り巻きに囲まれている彼女が一人でいること自体珍しいことなのだが、下駄箱では、顔を合わせれば挨拶する程度なのに、わざわざ阿川の方から詩織の元に近付いてきて挨拶したことに驚きを隠せなかった。  挨拶を返そうとして口を開くが、昨日の事もあってか変に緊張して、「お、お、おはよう……ございます」と、どもってしまった。 「ふふっ。同じクラスなのに何で敬語なの?」  目を細めて上品に笑う彼女は、詩織の噛み噛みの挨拶よりも、敬語の方が気になったようだ。  詩織にとってはクラスメイトとはいえど、手の届かない場所にいる、いわば憧れ的な存在。  タメ口なんて恐れ多いと思い、内心オロオロしていると、阿川は更に有り得ない言葉を発した。 「せっかくだし、教室まで一緒にいかない?」  自分のような地味なタイプと、どこにいても注目を浴びる阿川が二人並んでいたら、誰がどう見たってチグハグでおかしい。  第一、話も合わないと思い、断ろうとしたのだが、意外と強引な面を持つ阿川は、有無を言わさず詩織の腕を掴んで廊下を進んだ。 「あ、あの……阿川さん、昨日……」 「なぁに? 中島さん」  にっこりと微笑みながら振り返る彼女の目は全く笑っていない。  共通の話題が思いつかず、居心地の悪さを感じていた詩織が、苦し紛れに昨日の事故について話そうとしたのだが、それを阿川は無言の圧力で口にすることを許さなかった。
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