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 押し黙る詩織を見て、「昨日、何か面白いドラマでもあった?」とわざとらしく話を変えると、何かに気が付いたかのように、「あっ……」と言って視線を下にズラすと、いきなり詩織の手をとった。  「え?」  急な出来事にポカンとする詩織を余所に、阿川は、「こんなに手が荒れてる」と、その手を摩る。 「あ、す、すみません。部活で画用液を使っているんで……」  白磁を思わせるひんやりとした滑らかな指先が、カサつき、節くれだった自分の指を撫でるのを見て、同じ女性として恥ずかしくなった詩織は頬を赤く染めると、やんわりと彼女の手を外した。  静かな拒絶に反応し、僅かに表情を曇らせたものの、すぐに阿川は閃いたような顔をして、鞄の中から何かを取り出した。 「これ、ハンドクリーム。無添加だし、少しは効果あると思うから使ってみて」 「そ、そんなっ! 肌荒れぐらいいつもの事だから気にしないでっ」  差し出された手の中には、いかにも高級そうな外国製のハンドクリーム。  日焼け止めクリームすら塗らない詩織は、冬場に遣うハンドクリームもコンビニで買う安いもの。  こんなところでも彼女と自分との差を感じ、一人で勝手に落ち込む詩織は、卑屈な気持ちを誤魔化すように、両手を胸の前で振って、阿川の申し出を断ってると、背後から走ってきた男子生徒にぶつかってしまった。 「きゃっ」  よろけたタイミングで、わざとではないが、阿川の手をはたいてしまう形になってしまい、彼女が持っていたハンドクリームが床に落ちた。 「ご、ごめんなさい」  慌てて拾おうとしたのだが、運悪く、「芳江っ」と、阿川のファーストネームを大声で呼びながら、駆け寄って来た藤崎彩音に踏み潰された。  ブチュリッと音を立て、中身が漏れる。  彼女の上履きの裏と床にベットリとクリームが付着した。
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